つんどらすたじお

マンガ、お酒、音楽など雑多に好きなものを語ります。

「体験」として読めるSF系漫画「きみと世界の終りを訪ねて」

昨年の早春、Twitterで気になる百合姫の読み切りの紹介が流れてきた。

このころ、ちょうど別のSF系の漫画作品を読んでいたこともあり、かなり読みたいと思ったのだが、この作品のために百合姫を買おうとは思えなかった。単行本だったらきっと買っていただろう。

ただ、この絵の雰囲気は頭の片隅に引っかかっていて、そのうち連作ものや短編集としてどこかで出ないかなと思っていた。それもいつしか忘れかけていたころに、連作をまとめた単行本の発売を知った。

 

きみと世界の終りを訪ねて【イラスト特典付】 (百合姫コミックス) | こるせ | 女性マンガ | Kindleストア | Amazon

人類がなにかの拍子に破滅に向かうかもしれないという気持ちを抱いたことがある人は少なくないと思う。その証左に人類が衰退した世界で生きる人々の漫画作品はたくさんある。

その中でもこの作品が引っかかったのは絵の雰囲気が気になったことにつきる。漫画のストーリーの雰囲気というのは、1ページの絵でもそれなりに伝わってくる(たまに外すけど、それは運と割り切っている)。

私が1ページの絵から想像したのは、人類衰退系のSF、迫り来る課題に「心」を持った存在が対処していくであろうこと、そして信頼関係が描かれているであろうことだった。また、スリルと疾走感のある物語というよりも、緩やかに変化する雰囲気を感じとれるだろうとも思った。

実際、手に取ってみたら1ページの絵から感じ取った雰囲気そのままだった。

緩やかに流れる時間の中で進む冒険譚。冒険といってもスリルは少ない。出会いで新しいことを知り、人々が緩やかに変わり、目的への手がかりを見つける。そして近づいていく。

こうして一般化してしまえば現実世界でもありうる話かもしれない。でも、こうした物語が人々をひきつけてやまないのは、登場人物にとっては不可逆ともいえる大きな変化があり、そこにどうしようもなく心惹かれ、時には感傷的になってしまうからだ。

この作品で見られるのは、登場人物の間に生まれる信頼や親愛の情、そしてその気持ちがもたらす変化や選択の苦しみだ。そして、彼らの変化や選択を見つめあがら、作品の描く世界に浸っていく。

このように現実とは違う世界に浸り、お互いの心情をいったりきたりすることで、物語に没入していけることは漫画というメディアの大きな魅力だ。

「きみと世界の終りを訪ねて」はまさに、ゆるやかな時間の流れと変わりゆく関係性を中心に物語の世界にゆったりと浸ることができる。そんな作品だ。

さらに言えば、表紙のデザインもよい。思わず見とれて、kindleだけではなく紙の本も買った。紙派の人はぜひ紙で、電子書籍派の人はどちらも手に入れて、体験として、この本の物語に浸る時間を過ごしてほしいと思う。